インドの衝撃 "貧困層"を狙え

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2008年1月、インドの自動車メーカー「タタ・モーターズ」が新型車を発表。

発表会でラタン・タタ会長が価格を発表すると会場が拍手喝采する。

なぜなら、その新型車の価格は10万ルピー(25万円)だからだ。

「世界最安」を追求したこの車は、部品や機能を極限までけずった。

たとえば、サイドミラーは1つ、ラジオもエアコンもなし。

この格安自動車の最大のターゲットはインドの農村市場である。

ラタン・タタ会長はこう言います。

「交通手段をお持ちでないインドの農村市場に自動車を提供したいと思います。」

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同じように、インドの農村市場を狙ったビジネスとしては携帯電話がある。

1時間に1万台携帯電話が売れるというインド。

そんなインドで、携帯電話の売れ行きが伸びているのは農村部。都市部を凌ぐ巨大市場となっている。

超成長市場です。ボーダフォンを始め、世界の携帯会社が殺到しています。

携帯電話会社は、「今、携帯電話を購入すると時計をプレゼントします!」とプレゼントキャンペーンをし、携帯加入者を増やそうとしている。


インドの農村部は、インドの人口11億人のうち7億人が暮らしているが、その多くが貧困層。長年、深刻な貧困に苦しんできた層だ。

今まではインド農村部は市場としての魅力はないとされてきたが、世界中から企業を惹きつけている。

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インドは、日本でもおなじみの生活用品メーカー「ユニリーバ」にとっても最も有望な市場の1つ。

年間売上3200億円。グループ企業の中でトップクラス。

ユニリーバはインドの農村市場にいち早く進出し、農村での貧困層向けビジネスで成功。

貧しい人でも買いやすいように、石鹸やシャンプー、洗剤、コーヒーを1ルピー(2.5円)で販売。

そんなユニリーバがインドの農村部でのビジネスに本格的に参入したのは90年代。

ユニリーバがインドの農村部に注目したのは、潜在的な市場規模だ。

インド人口11億のうち7億人を占める貧困層の大部分は農村に住んでおり、1世帯あたりの購買力は年間約16万円。

全体の市場規模は25兆円。

ユニリーバは、この巨大市場を貧しい人でも買える低価格商品で開拓しようとした。

しかし、売れたのはインドの60万ある村の10万程度。都市部に近い村では売れたが、都市から離れた村ではあまり売れない。

そこで、ユニリーバは調査を開始した。

すると、インドの農村部では石鹸など日常品を使用する習慣が根付いていないなど、商品を受け入れられる状態ではないことが分かった。

ユニリーバ調査員が「この村でせっけんを使っていない人が何割いると思いますか?」とある村の人に尋ねると、「6割の人は使っていないと思います」「せっけんがどういうものか私には分かりません」といった答えが返ってくる。

インド農村では長年、生活に必要なものは、牛の糞(フン)など村で手に入るものを活用してきた。

手や髪の毛を洗うのに、泥(ドロ)や灰(ハイ)を利用する人もいる。

こうした自給自足の習慣が、シャンプーを主力商品とするユニリーバにとっては大きな問題となった。

そこで、ユニリーバは、大人に比べ習慣を買えやすい7〜13歳の子供たちをターゲットにし、キャンペーンを始めた。

石鹸で手を洗うこと、清潔でいることがいかに大切なのかといったことを教育する。

授業では子供達に「食事の前、トイレのあと、シャワーの時、遊んだあともユニリーバの石鹸を使いましょう」と復唱させる。

そんな子供達は家に帰って、自宅に帰ると教わったことを家族に話す。

インドの農村ではテレビや新聞が普及していないため、クチコミが非常に重要な役割を果たしている。

学校で子供達に情報を流すことで、親たちにもその情報が伝わるというわけだ。

ユニリーバーのキャンペーンの目的は、子供を通じて習慣や伝統を変え、農村でもせっけんが使われるようにすることだ。

つまり、子供達がユニリーバの代理人になっているのだ。

ユニリーバはインドのすべての農村でこのキャンペーンをやろうとしている。

このようにユニリーバは自社の商品をインド農村部で広めるために子供に目を付けたが、次に目をつけたのがインド農村部の女性が持つ村づきあい、つまりネットワーク力だ。

しかし、農村の女性は仕事の経験がない人がほどんど。保守的な農村では、女性は学校にも通えず、18歳になる前に結婚する人が半数を占め、その後は家の仕事を手伝うだけ。

そこで、ユニリーバは商品のセールスを教え、一人前の販売員に育てるために「私は毎月2万5000円〜5万円分の商品を販売しています」と語るPRビデオを作り、女性販売員の研修会を各地で開く。

研修会で特に力を入れているのは女性たちの意識改革。

お金を儲けることの意義を訴えます。

「私はビジネスを通して皆さんに"強さ"を養ってほしいのです。ビジネスでは強さというのはお金を意味します。ビジネスが成功すれば、みなさんは幸せになれます。我が社の販売が伸びれば、私もとてもうれしいです。」

これは研修会での一場面。

20歳の主婦は、最初はどうしていいか分からず、村での人間関係が崩れるを恐れていましたが、なんとか最初の仕事を終え、370円を売上、そのうち30円が自分の収入となりました。生まれて初めてお金を自分で稼ぎました。

ユニリーバの女性販売員は平均して1年で30万円ほどを売り上げるようになる。

今ではシャンプーの売上の半分以上を貧困層向け製品が占めるようになってきている。

ユニリーバは現在4万5000人いる女性販売員を2年後には10万人にまで増やす計画。

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インドの農村市場に進出した日清のインスタントラーメン。価格は1つ4ルピー(10円)。

しかし、大規模なテレビCMを流しても、あまり売れず。

苦戦の原因は出遅れ。

日清より8年早く進出したネスレのインスタントラーメンが市場をほぼ独占している。

農村部は多くの商品に触れる機会がないので、一番乗りのブランドは圧倒的優位に立つ。

農村では最初に手にした商品、慣れ親しんだ商品が強い。

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こんなインド農村部でもショッピングモールが突如あらわれる。

農産物を主に扱い、年間5000億円を売り上げる総合商社ITCが、農家向けに作ったショッピングモールだ。

このショッピングモールでは主に、携帯電話や家電製品、オートバイが人気がある。

総合商社ITCは10年前から農村を対象としたビジネスを始めたが、農産物の取引に課題があった。

当時は以下のように公設市場を通して農産物を仕入れていたが、仲買人に多額の手数料(商品の価格の5%以上)を取られていた。

農家

公設市場

仲買人(手数料)

ITCショッピングモール

インドでは90年代半ばまで、農産物の取引は公設市場でやるように義務づけられていたが、今は取引が自由化され公設市場を使う必要はない。

農家も公設市場で売っても、仲買人に多額の手数料をとられ、ほとんど利益が出ない状態に憤りを感じていた。

総合商社ITCはここに目をつけ、農家とITCが直接取引ができるようになれば、互いに利益が得られるようになると考える。

農家

ITCショッピングモール

そこで、農村にパソコンを設置し、インターネットを通して農家に買い取り価格を提示する。

仲買人による手数料がないので、ITCは高い価格で買い、農家も高い価格で売れる。

農村部にインターネットを通すのは大変だった。

インドの農村では電話さえ通じないところも少なくなく、テレビすら4割しか普及していない状態。

衛生アンテナを使いインターネットにつなぎ、農村は停電が多いので太陽電池も使い、技術者を派遣しパソコンの使い方も1から教えた。

ITCがパソコンを設置した村では、農家の生活は大きく変わった。

農家の人は公設市場の価格とITCの買い取り価格を電子集会所で比較する。

(例)小麦の買取価格
公設市場:1060
ITC:1100

農家の人は高めの価格で買い取ってくれるITCに小麦を売るようになり、年間16万円と言われた農家の収入は1割ほどアップし収入が増える。

そして、儲かった農家はITCのショッピングモールで家電製品を買うようになる。

テレビを買ったある農家の主人の言葉。

「お金が入るようになると、さらにお金が欲しくなります。1年で25万円を稼げるようになったら、何でも買えて幸せになれるでしょう。」

その主人の妻の言葉。

「お父さんがもっと稼いで、もっと色々な物を買ってくれたら夢のようでしょう。我が家の生活は豊かになりました。以前は貧乏でしたが、今はお金持ちの仲間入りです。ハッハッハッハッハッー(笑顔)」

ITCは農産物買い取り所のとなりにショッピングモールを作り、ショッピングモール内で代金を受け取る仕組みにし、農産物を売って得たお金で買い物ができるようにしている。

ITCの売上はこの10年で3倍以上になる。

ITCはこのビジネスモデルをインドだけでなく、アフリカ、アジアを始め全世界で進める計画。

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長い間、貧しいとされ経済の動きとも無縁だったインドの農村部。

しかし、今、インド農村部の貧困層をターゲットとしたビジネスが次々と登場。巨大な市場として目覚め始める。

このビジネスの広がりは、農村で長年続いた自給自足の生活、伝統的な生き方も変え始める。

インドの農村市場は7年後、40兆円を超えると見られている。

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