沸騰都市 シンガポール:世界の頭脳を呼び寄せろ

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世界最高峰の自動車レース「Formula 1(フォーミュラ 1)」が、2008年9月にはじめてシンガポールで開催された。

公道を使った夜のレースは史上初。光り輝く町並みが金融危機後のシンガポールの健在ぶりを世界に示した。

F1を誘致したのはリー・シェンロン首相。狙いは小国シンガポールを海外にアピールし、世界の人材を惹きつけること。

リー・シェンロン首相は次のように語る。

「世界から人材を多く集めたい。質は高ければ高いほど良いのだ。」

熱心な呼びかけに応えて、科学者・投資家・美女といったあらゆる才能が続々とシンガポールに集結している。

アメリカ人投資家は次のように語る。

「シンガポールはこの危機を一番早く乗り越えると思う。ここに来て、本当に良かったよ。」

最大のターゲットはバイオテクノロジーの科学者。天才を引き抜き、潤沢や予算と手厚い待遇を与えている。

シンガポール政府高官は次のように語る。

「ノーベル賞なんか二の次だね。大切なのはGDPと国家の収入さ。シンガポールは優秀な人材なしにはすぐ沈んでおしまいさ。だから、命がけで才能を集めるんだ。」

巨大工事も外国人頼み。しかし、不要となれば容赦なく切り捨てられる運命。

EDB(経済開発庁)の局長は次のように語る。

「人材によってルールは当然違います。才能で区別してこそ彼らを活用できるのです。」


倉庫街ではオークション会社の現代絵画内覧会が開かれていた。

金融危機を生き残った資産家たちが招待されていた。そのほとんどが外国人。シンガポール政府の外国人優遇策に惹かれて来た人たち。

現代絵画内覧会に訪れたインド人投資家は次のように語る。

「今でも買いたいものはどんどん買っていますよ。ぜんぜん不安はありません。」

ベルギー人投資家は次のように語る。

「ここは地上の楽園ですね。外国人に優しい国です。何をするにもスムーズに運びます。」


総資産数百億円とも言われる世界的なアメリカ人投資家ジム・ロジャースさん(66歳)もシンガポールに引き寄せられた外国人の1人。

現代絵画内覧会に一緒に来た妻に「気に入ったわ、子供部屋にどう?たった3000ドルよ。」と聞かれると「Buy!(買っちゃえ)」のひと言。

ジム・ロジャースさん一昨年、ニューヨークの自宅を売り払い、シンガポールに一家で移り住んできた。

シンガポールはアジアの金融の中心地。投資活動を続ける上で人材も情報もニューヨークと遜色はない。

シンガポールに1億円以上投資した人には、ほぼ無条件で永住権が与えられる。

シンガポールにはジム・ロジャースさんのような外国人富裕層が数万人住んでいる。

ジム・ロジャースさん次のように語る。

「アメリカはダメだと分かっていました。ここに来て正解でした。シンガポール政府は優秀な才能を世界から集めいています。政府は人材を集めなければ国が成り立たないと考え、真剣にリクルートし、その努力は成果を上げています。」


2008年12月、世界的なコンピューターグラフィックスの展示会が開かれた。

ここでも政府の人材獲得戦略が密かに行われていた。

このイベントはこれまでアメリカで行われていたが、シンガポール政府が働きかけ誘致に成功した。

集まったのは世界の名だたるクリエーター達。

会場にはシンガポール政府の人材獲得部隊が送り込まれ、海外の優秀なクリエーターをリクルートする。


人材獲得部隊が所属するのは、経済政策を最優先する国家の中枢官庁であるEDB(経済開発庁)。

金融危機の影響はあるが、シンガポールの1人当たりの外貨準備高は世界一。

政府は好景気の間にため込んできた莫大な資金を、人材獲得におしげもなく投資する。

EDB(経済開発庁)のトップは局長であるベー・スワンジンさん(41歳)。

金融危機をどう乗り切るか、リー・シェンロン首相に経済政策を進言する最大のブレーンの1人でありスーパーエリート。

ベー・スワンジンさんは次のように語る。

「危機の今こそ世界の人材を獲得するすばらしい機会なのです。我々はこの時を見逃さず、世界景気が回復に向かう時はシンガポールが飛躍できるように着々と手を打っているのです。」


1965年に建国されたシンガポールは、東京23区とほぼ同じ面積に480万人が住む都市国家。

石油などの天然資源はほとんどない。水さえも、隣のマレーシア頼み。

7%を超える経済成長を続け、2年前(2007年)には1人当たりGDPで日本を追い抜き、アジアで最も豊かな国になった。

しかし、今年は(2009年)はマイナス成長に転じる見込み。

「シンガポール株式会社」とも呼ばれ、強烈なリーダーシップで経済優先の政策を推し進めてきた。

金融危機の今、人材獲得を最重要課題に掲げている。


リー・シェンロン首相率いる与党は、国会で84議席中82議席を占め、盤石の体制で指揮をとっている。

リー・シェンロン首相は、「建国の父」リー・クアンユー初代首相の息子として帝王学を学んだ。

ケンブリッジとハーバードという2つの最高学府で学位をとった、まさに国家のリーダーとなるために育てられた人物。

リー・シェンロン首相は次のように語る。

「これからは知識が経済を動かす時代です。才能を手元に集めることが継続的な発展のカギなのです。資源大国であっても資源が無くなればそれでおしまいじゃないですか。」


シンガポール政府が人材獲得の最大のターゲットに定めたのがバイオテクノロジーの科学者。

約3000億円を投じて、研究都市「バイオポリス」を建設している。

再生医療、クローン研究、癌遺伝子の解明など、将来巨万の富を生むという分野に集中投資している。

バイオポリスの完成はまだ8割だが、稼働している施設には世界中から2000人の科学者がすでに集まってきている。

バイオポリス建設を提案したのは、首相特別顧問のフィリップ・ヨーさん。

フィリップ・ヨーさんは、EDB(経済開発庁)の長官も務めた人材獲得のエキスパート。今までに世界の有名な科学者を軒並みリクルートしてきた。

フィリップ・ヨーさんは顔写真付きの名簿を見ながら次のように語る。

「彼はゲノム研究の専門家、彼はがんの権威、彼女は皮膚がん、彼は遺伝子生物学、こちらはデューク大医学部長、彼はフランスのパストゥール研究所長、彼女はスタンフォード大の医学部長。いくらでもいるよ。世界の科学者をスカウトするのが私の仕事さ。」


日本からも優秀な科学者たちが次々とシンガポールに渡っている。

癌遺伝子研究の世界的権威である伊藤嘉明さん(70歳)もその1人。

京都大学の教授だった伊藤嘉明さんが、フィリップ・ヨーさん(シンガポール首相特別顧問)の誘いを受けたのは、定年間際のことだった。

「研究室のスタッフ10人をまるごと引き受ける」という申し出に迷うことなく決断した。

伊藤嘉明さんは次のように語る。

「私は日本では働く場所がないんですよ。でも、ここに来ると歓迎してもらっているわけです。日本ではほとんどの人が定年後に研究を続ける場合に、やっぱり規模は縮小しなければならない。」

2008年9月、伊藤嘉明さんは大きな研究成果を上げた。バイオポリスに各国の記者が集まった。

フィリップ・ヨーさん(シンガポール首相特別顧問)は次のように語る。

「60歳やそこらで退職なんて考えられない制度だね。政治家だったら定年退職なんかない。日本にとって大きな損失だよ。」

バイオ関係の科学者を集める狙いは、シンガポールを医療大国にすること。

最先端医療を実現すれば、世界各国から患者が集まり、莫大な富をもたらすと期待している。

フィリップ・ヨーさん(シンガポール首相特別顧問)は、白板にペンで文字を書きながら次のように説明する。

「ノーベル賞なんか二の次だよ。私が興味があるのはGDP、雇用、国家の収入だよ。産業に結びつかなければ、科学の成果は意味がないんだよ。」


シンガポール政府はやってきた科学者に手厚い支援を行っている。

2008年、京都大学からシンガポールに渡り、バイオポリス研究室を開いた大里元美さん(45歳)は、バイオポリスで白血病の研究をしている。

バイオポリスの研究環境は日本時代とは比べものにならない。

実験用の小動物は使い放題、アジア最大規模の飼育施設には魚40万匹、マウス10万匹が飼育され、専門のスタッフもいる。

大里元美さんは次のように語る。

「日本ではエサやりやネズミのケージなどは学生や私自身がやっていました。でも、ここはバックアップしてくれる施設の組織がしっかりしている。だから、実験そのものに専念できるので、非常に研究者側にとっては助かりますね。」

高価な実験用機器の選定や購入も大里元美さんの意向に任されている。

大里元美さんは日本ではほとんど導入されていない最新の細胞分析機を2台購入した。値段は1台およそ1億円。

研究室の予算の限度が実際にいくらなのか大里さん自身も知らない。

大里元美さんは次のように語る。

「サイエンティフィックに必要だという判断さえなされれば、何も言ってこないので、欲しいという機械を比較的短期間に決断をして手に入れることができるような状況に今のシンガポールはあると思います。」

契約は3年。実績を上げられなければ契約は更新されない。

日本と違いプレッシャーはかかりますが、成果を上げ続ける限り快適な生活が約束される。

大里元美さんは次のように語る。

「他の世界中のいい街、ボストンとかと比べても、研究面も家族の生活も含めて世界中で一番いい場所だと思います。帰国しようと思うことはむこう10年はないと思いますね。」


観光にも力を入れているシンガポールは、巨大カジノリゾートをはじめ、大型の建設工事が各地で行われている。

建設現場の主役も外国人。中国やインド、バングラデシュなど近隣の国からやってきた労働者は約15万人。

リトル・インディアには南アジアからの労働者が暮らしている。

シンガポールで1年働けば、母国の収入の10年分を稼げる。

外国人労働者はシンガポール政府が認可した人材派遣会社に所属しなければ働けない。

外国人労働者は人材派遣会社の寮に寝泊まりしている。倉庫にベッドを並べただけの場所に400人が住んでいる。

熱帯の夜をエアコンなしで住んでいる。雨漏りも激しく、病人もしばしば出るという。

外国人労働者たちはトラックの荷台に乗せられて現場に向かう。

交通規制の厳しいシンガポールだが、政府も黙認している。

金融危機のあおりを受け、建設現場の仕事が減っている。3ヶ月前に来ても、派遣会社からまだ仕事をもらっていない外国人労働者もいる。

外国人労働者に与えられるビザは原則2年。家族も呼べない。定住を防ぐシンガポール政府の政策。


シンガポールには職を求めて女性も数多く来ている。

その多くがフィリピン人女性。住み込みでメイドの仕事についている。

月収は3万円ほど。シンガポールでの生活をギリギリに切りつめ収入のほとんどを故郷の家族に送る。

女性の単純労働者は半年に1度、妊娠検査を義務づけられている。これも定住を防ぐための政策。妊娠テストが陽性なら国外退去しなくてはならない。

シンガポールは単純労働者を徹底的な管理の元に置いているので、先進国が直面する外国人労働者の不法流入問題とは無縁だ。


デモが事実上禁止されているシンガポールで、最近珍しい光景が見られるようになってきた。

投資の失敗で財産を失った人たちが集会を開き、救助を訴えている。

金融危機でシンガポールは深刻な打撃を受けている。株価は一時50%以上下落した。

集会に来た人は次のように語る。

「大金を失ったよ。5万ドルか30万ドル。」「買うときは天国だと言われ、今は地獄よ。」

シンガポール政府は、アメリカ人投資家ジム・ロジャースさんを招き、緊急の講演会を開いた。

司会者に「経済は冬の時代ですが、前向きな話はありませんか?」と尋ねられたジム・ロジャースさんは次のように答える。

「最悪の時こそチャンスです。30年代の世界恐慌でさえ多くの人が財産を築きました。チャンスを探し続けた人だけが成功したのです。シンガポール政府の政策は間違っていません。結局、シンガポールは笑う国になりますよ。」


100年に1度と言われるこの金融危機にどう対応するのか?

海外メディアを集めた会見で、リー・シェンロン首相は次のように語る。

「短期的対策はもちろん長期投資を着実に進めることが必要です。世界から才能を呼び続けることが絶対に重要です。どんな世界が来ようとも才能こそが繁栄をもたらすのです。」

パイオポリスは科学者獲得のスピードを速めていた。

科学者のスカウトには、世界的権威である伊藤嘉明さんの幅広い人脈と確かな目を活用していた。

IPS細胞の研究で世界を驚かせた京都大学の山中教授の名前もスカウトリストに上がっている。

フィリップ・ヨーさん(シンガポール首相特別顧問)は次のように語る。

「日本、アメリカ、中国。世界中の才能を呼んでこよう。いま彼らは資金に困っている。我が国は欲しいものを与えられる。」

「日本はお金を持っているけど、使い方を知らないんだ。私が日本人ならヤマナカ教授に1億円や2億円を用意するね。」

次々に実績を上げ、フィリップ・ヨーさんの大きな信頼を勝ち得た伊藤嘉明さんは、200億円近くをかけた新しい癌研究所の人材獲得を任されている。

各国の研究予算が減っている今、世界から才能を大量に集めるチャンスと見ている。

バイオポリスでは、30代を中心に若手研究者を世界からリストアップ。それぞれの履歴と業績を冷徹に査定している。

天才レベルの科学者でも、シンガポールに招待し研究環境を知ってもらえば必ず獲得できる自信を持っている。


日本人の大里元美さんは少々焦っていた。自分と同じ中堅クラスの研究者が数人、次々と解雇されていたからだ。

上司から送られてきた成績表にも「good but can be improved(良いけど改善の余地あり)」と気になる記述があった。

評価の基準は論文掲載。

大里元美さんは去年8本の論文を発表している。いずれも各専門分野で有名な雑誌。日本なら文句なしの業績。

しかし、バイオポリスが評価するのは「nature」「Cell」「Science」の御三家と呼ばれる超一流雑誌での掲載。

大里元美さんは次のように語る。

「10本このクラスを書いても、たぶん評価してくれないと思います。1本でも2本でもいいから、natureクラスに通さないとシンガポールの研究所にはいれないと思いますね。」

「nature」に実験結果の要約を送り、「興味あり」という回答が返ってくれば、正式に論文を送り、そこでさらにふるいにかけられる。

掲載率7.8%の難関。


リトル・インディアでは仕事にあふれる人が急増していた。

金融危機の影響で建設工事の延期や中止が増えているから。

人材派遣会社からはひと月7000円ほどの生活費が支給されている。

このまま仕事がなければ、2年の滞在期間がたたないうちに派遣会社によって本国に送り返されてしまう。3ヶ月で契約を打ち切られ帰国せざるを得ない人もいる。

外国人記者から「政府の担当者が"クビになるのは外国人労働者だ"と発言しました。どんなによく働いても、まず切られるのは外国人ですか?」と尋ねられたリー・シェンロン首相は次のように答える。

「はっきり申し上げます。外国人はバッファー(調整弁)です。だからこそ、彼らの入国を許可しているんです。景気が良いときは多数の労働力が必要ですし、悪いときは外国人が解雇になることもあるでしょう。彼らはいい調整弁になってくれるというわけです。シンガポール人に選ばれた私が国民の利益を優先するのは当然です。」


シンガポール政府は400億円をつぎ込み、新たに巨大研究施設をオープンさせた。

「ヒュージョンポリス」と名付けられたこの施設は、バイオ立国を目指すリー・シェンロン首相の決意の表れだ。

ここでは、バイオテクノロジーだけでなく人工知能やIT技術などの工学系まで含め、幅広い研究施設が入る。

異なった分野の科学者が1つの場に集うことで、新しい発想を生み出そうという狙いがある。


アジアで最も豊かな国となったシンガポール。

金融危機を乗り越えさらに上を目指そうと、政府は徹底した能力主義で世界に冠たる人材大国を打ち立てようとしている。

リー・シェンロン首相は次のように語る。

「この政策は痛みを伴うが、"将来は必ず良くなる"と政府が言えば、国民は信じてくれるのです。日本では"ネマワシ"と言って時間がかかるんですよね。私たちも国民に理解を求めますが時間はかけません。小さい国だから、同じ問題を皆が共有しています。全国民が同じ方向を向き、いっせいに邁進するのです。」


シンガポール政府はまた新たな研究施設の建設を発表した。

今度は250億円を投じ、世界で関心の高まる環境技術の開発だ。


【感想】

シンガポールというアジアの金融都市というイメージがありましたが、それでなく、世界の人材都市となりつつあるんですね。

「能力のある者には優遇する」という完全実力主義は勝者と敗者を生みますが、効率性という意味では非常に高いと思います。

それにしても、日本の優秀な人材もシンガポールにとられていたんですね。

日本の定年60歳はバカバカしいね。優秀な人は元気がある限り仕事環境を優遇すべきだと思います。じゃないと、他国にとられてしまいますから。

一方、放送内でも言っていましたが、政治家には定年退職がないという事実に改めて驚きました。

結果を出さなくも、そのポジションに固持できるのが、日本の政治家なんですね。。政治家にも能力主義を導入すべきだと思いますね。

それと、今回の放送はシンガポールにいる優秀な外国人とそれを取り巻く環境についてでしたが、シンガポール人はどのように暮らしているのでしょうか?

外国人ばかり良い環境を与えれて、自分たちはどう思っているのでしょうか?

リー・シェンロン首相は「この政策は痛みを伴うが、"将来は必ず良くなる"と政府が言えば、国民は信じてくれるのです。」と言っていますが、本当に国民は納得しているのでしょうか?

この辺りが気になりました。

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