沸騰都市 サンパウロ:富豪は空を飛ぶ

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ブラジル、サンパウロの自動車工場。

ここではある特殊な作業が行われている。

マシンガンの襲撃にも耐える防弾車への改造。費用は300万円。

サンパウロでは富裕層の増加でこの商売が大繁盛。

工場の従業員は次のように語る。

「普通は大統領向けのビジネスだろうけど、今はみんなが防弾車を欲しがるんだ」

一番人気の車は意外にもトヨタカローラ。

理由はカローラなら目立たないから。

しかし、本当の富豪がいるのは空の上。渋滞のない空をヘリコプターで移動する。

資源産業や農業で財を成した空飛ぶ富豪。

サトウキビ園の大農場主は2機のヘリコプターを所有しているが、新たに最新のヘリコプターを購入。その額、3億5000万円。

サンパウロを行き交うヘリコプターは400機を超える。個人所有の数はニューヨークを抜いて世界1位。

ヘリポートの数も300近くある。新しいオフィスビルや高級マンションのほとんどには屋上にヘリポートがあり、不動産価値を上げる1つの条件となっている。

投資会社の経営者はヘリコプターを使って空を移動する理由を次のように語る。

「車だと何キロもの渋滞ですよ。朝10時なのに大渋滞です。バンパーがくっつくような大渋滞が何キロも続いているんです。車なら1時間15分かかるところをヘリコプターなら5分ですよ。」


サンパウロは今、渋滞が深刻な社会問題となっている。

ブラジルでは貧困を抜け出した大量の中間層が出現している。それと共に車の数も一気に増えている。

道路や電車などの交通インフラの整備が追いついていない。

サンパウロの人口は1700万人。

資源と食糧高騰の追い風を受け、急成長してきたブラジル経済の中心地。

金融危機でその勢いは減速したが、それでも2008年の経済成長率は5%台を維持した。


投資会社の経営者は、会員制ヘリタクシー会社という新しいビジネスを始めた。

15機あるヘリコプターをいつでも必要な時に使えるビジネス。

毎年売上は25%ずつ増え、企業や弁護士、医者など300の顧客を抱えている。

会員制ヘリタクシー会社の従業員は、1機のヘリコプターを前にして次のように語る。

「このヘリコプターの価格は7億円です。とても高価なものです。わが社では5人で分けて買うシステムですから、お一人1億4000万円。高額ですが、一機丸ごと買うよりはかなりお手頃ですよ。」

会員制ヘリタクシー会社を利用している経営コンサルタントは次のように語る。

「ヘリコプターを使う以前は、1日4つの会議しかできなかったけど、今は10できるようになった。サンパウロのやり方、世界のやり方ですよ。」

空飛ぶ富豪の合い言葉は「Time is money(時は金なり)」。


ブラジル経済は金融危機の直撃を受けている。一時、株価は最高値から60%急落、通貨レアルも40%下落した。

ブラジルをBRICSの雄としてもてはやしていた先進国は、自分の足下が怪しくなった途端、流し込んだマネーを一斉に引き上げていった。


主要国の経済政策担当者が集まり金融危機への対策が話し合われた「G20」で、先進国が自信をなくしている中、ブラジルのルーラ大統領は次のように語った。

「ブラジルは経済危機に対する準備ができていた。我々の経済基盤は安定している。これまでも危機はあったが我々は乗り越えてきた。今、その努力が実ったのだ。」

ルーラ大統領の強気発言を支えているのは、世界最強と言われている農業力。


サトウキビ園の農場主である富豪も、金融危機の影響がどんなに拡大しようとブラジル農業に揺るぎない自信を持っている。

この富豪は、ヘリコプターでの移動中で新聞を見ながら次のように語る。

「新聞を読んでいるのは単なる好奇心からだよ。金融危機だと言われても痛くもかゆくもないさ。なぜって、ブラジルはまだ耕作可能な農地の4分の1も開拓していないんだ。世界中が食べるのをやめない限り、ブラジルは成長し続けるよ。」

穀物、畜産、果物でブラジルは世界有数の生産量を誇る。

それでいてまだ、耕作可能な土地が熱帯雨林を除いても、2億ヘクタール残っている。日本の総面積の5倍以上。

サトウキビ園の農場主の富豪が今の富を築いたのは、父親の代にサトウキビ栽培の目的を砂糖生産からバイオ燃料のエタノール製造に切り替えたのがきっかけ。

エタノールはサトウキビやトウモロコシの絞り汁を発酵して作るアルコールで、石油に変わるエネルギーとして需要が増えている。

サトウキビ園の農場主のオフィスがあるサンパウロ州ヒベロンプレットでは、サトウキビ畑の中に突然、高層ビルが建ち並ぶ街が現れる。

オフィス周辺には30のエタノール工場があり、住民の多くがエタノール産業に関わっている。

かつては、コーヒー農園が広がる農村に過ぎなかったが、父親が最初のエタノール工場を建設すると、続々と人が集まり、今では1人当たりの納税額がブラジルでもトップクラスとなるほどの豊かな街になった。


エタノールの2大生産国はアメリカとブラジル。

アメリカでは原料はトウモロコシだが、家畜のエサにも使われるため需要と供給がひっぱくし、激しい高騰を招いた。

しかし、サトウキビは砂糖の需要が世界的にみてほぼ安定しており、ブラジルの土地の余力も大きいため、食料との競合は起こっていない。

エタノールは今、環境ビジネスの1つとして、世界的に関心が高まっている。

植物を原料としているため、エタノールは使っても大気中の二酸化炭素の総量を増やさないと考えられているから。

サトウキビ園の農場主は次のように語る。

「石油は争いを起こします。それが石油の一面です。どれほど多くの人が石油は災いの元だと言ったことか。エタノールは石油とは正反対です。エタノールは仕事を呼び寄せ平和を呼び寄せる。ここが大事なポイントです。」


ブラジルは国をあげてエタノールの生産と普及に取り組んできた。

その柱となったが、1975年の国家アルコール計画。

当時、石油ショックによって原油価格が高騰。その後、ブラジルは数千パーセントというすさまじいインフレに苦しんだ。

政府は広大な農地に目を向け、莫大な補助金を投じて、世界がまだ見向きもしなかったエタノール開発をはじめた。

エタノール産業が花開いたのは、イラク戦争による再びの原油高騰の時。

石油に変わるエネルギーとして、ブラジル国内で一気に普及した。

新車の9割がガソリンとエタノールがどちらも使える「フレックス車(FLEX POWER)」。

エタノールの燃費はガソリンの7割と劣るが、価格は6割と割安。

エタノールとガソリンの2つの選択肢があることで、世界が原油高騰で苦しんだ時にも、ガソリンの価格は低く抑えられていた。


かつて、貧富の格差が世界最大と言われたブラジルだが、2008年に中間層が人口1億8000万の半分を超えた。

貧しい農村の出身であるルーラ大統領は、貧困層の所得向上を実現させ、支持率84%を誇っている。

ブラジル経済の牽引車は、中間層が生み出す巨大な消費。

その消費が落ち込んできたことを懸念して、ルーラ大統領は金融危機に対する方針を伝えるために、各産業のリーダーを緊急に招集して次のように語る。

「私はブラジル国民の中で一番の楽天家だ。消費を思いとどまらず買いたいものは買って欲しい。ブラジルではずっと長い間欲しいものを買えない時期があった。ようやく今、車をもつ夢を見られる時代が来た。コンピューターを持ったり、大きなプラズマテレビを買ったり、薄いテレビをみんな欲しがっているだろ。私の役目はみんなが買うように後押しすること。なぜって、労働者が給料で家族の暮らしを良くするのは喜ばしいことじゃないか。それでこし、我が国は成長し続けるのだ。2009年が良い年になるかは、我々自身にかかっている。めそめそしたり自信をなくしたら、悪い年になるだろう。他の国々がキリギリスのようにのんびり歌っていたとき、我々はアリのようにあくせく働き蓄えてきたじゃないか。だから、我が国は大丈夫なのだ。」


「消費を減らすな」という大統領の号令に応えるように、サンパウロでは週末、20箇所で自動車販売フェアが開かれている。

2008年、ブラジルの自動車販売は前の年から20%増える見込みだったが、10月以降、売れ行きが落ち込んでいる。

サンパウロ州当局は自動車ローンを対象に2000億円の緊急資本注入を行った。

銀行の貸し渋りを防ぎ、販売の減少を食い止めることが狙い。

パン職人の男性は72万円の中古車を60回払いで購入した。

ローンの支払いはひと月2万3000円。土日も働いて月収は7万円。妻1人、娘が3人。


ふって湧いたようなBRICSブームは去ったが、農業大国ブラジルに向けたあらたな投資の動きがはじまっている。

クエート、パーレーン、サウジアラビアなどがブラジルのエタノールへの投資を前向きに考えている。

エタノールは石油と敵対すると思われがちだが、石油に混ぜれば石油の寿命を長引かせられるから。


「バイオ燃料国際会議」では各国から非常に多くの人が集まってきた。

有力な投資先が世界になくなってきた今、環境を重視したエタノールビジネスには新たな投資先として期待が集まっている。

100を超える国から政府関係者や投資家が集まったが、最も目立ったのがアフリカからの参加者。

熱帯のアフリカは、サトウキビ栽培に適しており、実際に栽培している国もたくさんある。

生成の技術があれば、すぐにでもエタノール生産が可能。

アフリカでエタノールが生産できれば、原油の輸入が抑えられ、将来的には有力な輸出品になるかもしれない。

ブラジルが「バイオ燃料国際会議」を開催した狙いには、世界のリーダーと目指すという国家戦略がある。

エタノール生産国が世界に広がれば、アメリカと中東が主導権を握る現在のエネルギー勢力図が、ブラジルを中心とした新しいものに変わる可能性もある。

「バイオ燃料国際会議」でルーラ大統領は次のように演説した。

「世界が大きな混乱と不安にある今、我々は安全保障を再構築するという課題に向き合っています。ブラジルは特に貧しい国々やアフリカ諸国に対して、ノウハウの移転を行う用意があるということを申し上げたい。この会議は、エネルギーだけを話し合うものではありません。新しい経済を形成し、社会の新しい関係を、そして国同士の関係を構築するものなのです。」


10年前、20%近くだったブラジルの失業率は下がり続け、現在7%まで改善されている。

サトウキビ園の農場主である富豪は次のように語る。

「不自然な形で成長している国々がある。例えばオイルマネーを蓄え成長した国とかだ。しかし、ブラジルは投機マネーによってではなく成長した。ゆっくりだが着実な成長だよ。ブラジルは外国の投資だけで成長したんじゃない。国民が富を作り出して成長した。それが重要なんだ。」

ブラジル中央銀行は、今年の経済成長率を3.2%と予測している。さらに、ルーラ大統領はそれを上回る4%を目指すと強気だ。


【感想】

世界的な原油高騰とエコブーム、そしてブラジルでの中間層の増加に比例した車の増加が後押しして、エタノールという新たなエネルギー需要が増えたんですね。

そして、エタノールの生産が仕事を生み出し、失業者も減っているという。

しかも、このエタノールが石油の主導権を握っているアメリカと中東による支配という世界の構図を変える可能性もあるんですね。

環境的にも、エタノールは二酸化炭素が出ないというメリットがあります。

ただ、ちょっと心配になったが、投機マネーですね。

投機マネーが入ったせいで高騰したトウモロコシのようにならないといいですが・・・。

それにしても、サンパウロは高層ビルの数がすごいですね。ブラジルのイメージがガラッとかわってしまいました。

しかも、車の増加に比べて、道路の設備が追いついていないのですごい渋滞です。

空から見ると全く動く気配がなかったくらいの渋滞が印象的でした。

ただ、ふと思ったのですが、ブラジルには自動車教習所はあるのでしょうか?

ただでさえ、車を買うのも大変なのに、日本のように時間とお金を使ってまで自動車教習所に通ったりするのかな?

その辺の法律はどうなっているのでしょうか?実は、凄い数の交通事故が起こっていたり。。。

渋滞の映像を観ていたら、ふとこんなことが頭をよぎりました。

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